窓の外をじっと眺めてみても、よく温めた甘い牛乳を飲もうとも、眠れない夜はやってくる。
なにもしない時間が好きではない自分にとって、ただ闇の中で目を瞑っているだけの時間はとても辛い。

私は暗闇に手を伸ばし、iPodを胸元に手繰り寄せる。
少しだけ締め付けの悪いSONYのヘッドフォンは、さらに眠りの邪魔になる気がしたけど、もうそんなことはどうでもよかった。

何を聴こうか、なんていうことを考える前から、指が自然とそのアルバムを追いかけた。
『辻井伸行 plays ドビュッシー』、曲は“アラベスク第1番”

アラベスク 第1番
カテゴリ: クラシック

私は音楽の簡単なことすらわからない。
だからこの曲について「出だしがこうで、こんな旋律があって…」なんて、言葉で音の地図を描くような説明はできない。

けれど、辻井さんの演奏で聴くアラベスク第1番は、美しい。それだけはわかっている。

私はわからないなりにもクラシックが好きで、ドビュッシーの様々な演奏を聴いてみるけど、アラベスク第1番は、辻井さんの演奏でないと気分が乗らない。
生後8ヶ月の辻井伸行さんがある曲について、ブーニンの演奏のものだけに興奮を示したのと同じように。

毛布にくるまり目を瞑りながらしばらくこのアルバムを聴いていると、ある瞬間、音がきらきらと瞬く光の粒となって、私のまぶたの内に現れはじめた。

音が輝いている。

それは初めての体験だったかもしれない。
美しい情景や色を、わたし自身が主体的に想像しながら聴くことはあった。けど今日は「音」が自分側から、まるでヴィーナスのように、美しい光に形を変えて、私のまぶたの中をはじけ飛び、舞っている。

そこからは彼の演奏に陶酔した。
お酒ではうまく酔うことのできない私が、音楽ですっかり酔いどれたのだ。

そんなうちに、耳や体にとっていけないこととはわかっていながらも、音楽を聴きながら眠りについた。

暗闇で、盲目のピアニストが奏でる音楽の真価を知る。そんな夜があってもいいだろう。

辻井さんの演奏を聴くときは、ぜひ部屋を暗くして、目を閉じて聴いてみてほしい。
全ての人が私と同じ感覚になるだなんてもちろん思っていないけど、日中聴くのとはまた違った、新しい音が聞こえてくると思う。


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