そろそろ書斎の壁の寂しい白を埋めなければならないと思っていた。

書斎、と私が呼んでいる3畳あるかないかの狭い空間は、乱雑に詰め込まれた本棚と、シェル型椅子、アンティーク調の丸机で構成される。

好きな絵画のポストカードを幾枚も飾って、一人美術館のようにしようかな、と思い立ち神保町の「文房堂」を見にいった。ここには新旧問わずあらゆる画家のポストカードが豊富に置かれている。

ロートレック、ピカソ、マティス、フェルメール…どれも大好きな画家だ。

しかし、壁に飾るのを想像したとて、なにかしっくり来ない。

しゅんとして、神保町すずらん通りを駅へと引き返す途中、ある額縁が視界の端をかすめた。

美しい柳色の外枠にやさしいゴールドの枠、さらに黄土色の枠がレイヤードされた、ポストカードサイズの額縁。

ガラスの中で藤田嗣治の『タピスリーの裸婦』が、物憂げな魅惑を放っている。

『タピスリーの裸婦』

明らかに”いいもの”であるオーラを放つその額縁は、訳ありの札に2500円と書き込まれていた。見たところ「訳」もそんなに気にならず、ソファ奥の壁に掛かっていることが、すんなり想像できた。

額縁店「清泉堂」をさらに覗くと、これの他にもう一枚額縁を連れ帰ろうという気になってきた。

どこかエジプティアンな意匠が施されたゴールドの真四角の枠も、私の心を捉えた。(写真左)

こちらは真四角だから中に飾る絵を選ぶのが難しそうとも思ったが、それ以上に額の可愛さが上回った。中にはこれまた藤田の代表作『カフェ』が最初から鎮座していた。

『カフェ』

中の絵はつきませんと書いてあったのだが、「元はチラシですがよければ…」と、店員さんが入れたままにしてくれた。

そのあとも額の中に飾るポスターや絵を探してみたのだが、藤田に勝るしっくり感が見つからず、そのまま家に帰り、早速飾ってみた。

いい。

西洋画なのは確かなのだけど、日本の美人画のような控えめさがあって、仰々しくない。狭いワンルームを程よい温度感でお洒落に見せてくれる。藤田の絵が大好きになった。

その日はカラフルな薔薇をまとめ買いして、新しい花瓶に飾った。

私の部屋の一番奥で、憧れのパリジェンヌが部屋全体を見守っているかのようで。

彼女の視界に映る部屋を、いつでも美しく保ちたいと思った。

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