花は生きるために香っている。
香りで虫を呼びつけ、蜜を吸った虫に、花粉を遠くまで運んでもらう。
そもそもは人間を楽しませるために香っているわけじゃなかったのだ。

それでは人間の私たちはなぜ、香水をまとうのか。
自分の香水を選んだときのことを思い出してみよう。

 

香りが強める、人の印象

私はあるとき、ふと気づいた。

アルバイト先で一緒に働いていた、年の離れた美しい女性。
彼女は若々しくきれいで、気前よく優しく、強くしなやかな女性だった。

付き合いはあったけど、そこまで深く関わったわけではなかった。
それでもそれだけの印象があるということ。
それは、彼女の”香り”の印象も、記憶のイメージの中に、無意識的に含まれているということだった。

スパイシーながらも甘さのある香水をさりげなく香らせていた。
彼女は顔立ちから外国人に間違えられることも多々あったけれど、その香りがさらに、エキゾチックでセクシーな印象を深めていたように思う。

当時17の私は、香りで自分の印象をより鮮やかに表現する彼女に、憧れていた。
私も自分にはっきりと似合う香水を捜し当てたい。そんな思いでさまざまな香りを試し始めた。

美しい花に香りがあるように、美しい女性にも香りがあってしかるべき。
あなたの残す香りの痕跡が、だれかの記憶となるのだから。
(ジャン・ポール・ゲラン)

 

他人に選ばれた香りは、結局つけなくなった

その時期は毎日香水のことばかり考えていて、暇があれば雑誌や本で気になった香りを試しに、デパートへ出掛けた。
香水というのは癖があるものだから、自分にとっての好き嫌いや理想は、日を追うごとに輪郭を強めていった。

それでもひと思いに決められなかった私は、香りのソムリエールがいる香水ショップへ行き、自分に合いそうな香りを人の判断に委ねてみた。

少し珍しくシソの香りが入っており、個性と万人受けの狭間にあって、「お嬢さん」の名がついたフランスの香水。

はじめは嬉しくてつけていたものの、不意に感じるあくどさに嫌気がさして、結局しまいこんでしまった。
香り自体は素敵だったので、考えてみればあくどさの正体は、「自分で選ばなかったこと」だった。

その経験は失敗だったけど、選ぶとき「自分がなりたい香りと好きな香りのバランスが大事」と、ソムリエールが言っていたのが参考になった。
それからはなりたい人間像と、好きな香りをメモに書き出して香水売り場へ出掛けた。

 

二面性に激しく惹かれる

ある日、デパートでJo Maloneというイギリスの香水ブランドを試した。
気に入った香りがあったので、また次来たときに選ぼうと思い、帰りにテスターの小さな香水をいただいた。
私の気に入りの香りはテスターが品切れで、”ピオニー&ブラッシュスエード”が箱の中に入っていた。

(ピオニーは芍薬で、ブラッシュスエードは…革?)

不思議に思いつつ家に帰って香りを振ると、もわっとした甘さのあるフェミニンな香りが広がった。一瞬、好みじゃないなと思った。

そのときの私は、どちらかといえば男性的なセクシーさのある香りを求めていたからだ。フローラルで甘みを感じる香りは受けつけなかった。

数時間たった頃だろうか。柔らかい革の香りが、芍薬の甘さにふわりと混じって現れた。
このとき、芍薬のように美しいピンクのドレスに、ライダースジャケットをさらりと羽織って颯爽と歩く女性が目に浮かぶ。

私が本当になりたいのは、「かっこよさと美しさを兼ね備えた人間」なのだと直感した。
その二面性をしっかりと表現したこの香りに、心の底から惹かれていった。

次に訪れたJo MALONEで手にしたのは、この『ピオニー&ブラッシュスエード』であったことはいうまでもないだろう。

 

香りで磨く自分の内面

私はどこまでも「かっこいい自分」になりたがっていた。
けれど心の奥底では、自分が生まれ持った女性らしい部分を大切に育てたいとも考えていたのだ。

考え方や姿勢はスマートかつ論理的でありたいけれど、ピンクのふんわりした服も着てみたい、セクシーな部分を忘れないでいたい。

この香りに偶然出会わなければ、私はかっこいい部分だけを伸ばそうとして痛い目を見ていたかもしれない。

当時かっこいいと思っていた、考えをずばりと口にする私は刺々しく、ナイフのように人を傷つけていたことを後から知った。

香りと自分を合わせようと努力してからは、人の気持ちをより考慮したり、表情に柔らかさをつけたり、繊細な自分が芽を出してくるようになった。

それは自分にとっては素晴らしい進歩で、素直に自分の女性性を表現することは自由で楽しいことだと知った。

 

今の私はこう選ぶ

“自分の好きな香り”と、”自分のなりたい人間像”を言語化し、それらしきものを手当たり次第に試してみる。好きか嫌いかは別として、”試した香水の印象”も、まずは言葉に変えてみる。

その三要素の交差点にある香水が、もっとも自分らしさを兼ね備えた香りである可能性が高いだろう。

ふとしたきっかけで出会った香りが、なりたい自分を連れてくる。
私たち人間は、理想の自分を表現するために香りをまとうのかもしれない。

おまけ 素敵な香水のつけ方
日本人は、香水に厳しい。
いくら自分と調和する香りを見つけたって、香らせ方を間違えればとたんに美しさは消え去ってしまう。まず2プッシュ以上はつけないことを肝に銘じよう。

そもそも香りが強い香水だったり、体温の高い場所につけるなら1プッシュがいいだろう。

私がおすすめするのは香水ソムリエールに教えてもらったものだ。
左右のウエスト〜腰部分に、1プッシュずつの計2プッシュ。
近寄ったときにさりげなく香り、香りが拡散しないので香水が苦手な人にも迷惑がかからない。

よく言われる”首筋や手首”は香りすぎるので、私は避けている。
飲食店ではできるだけ香らせないのがマナーだろう。

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