小旅行先としての「千葉」に、今、私は熱い視線を注いでいる。

東京から千葉までの距離感は、小さな旅行気分を味わわせてくれる絶妙さ。
神奈川であれば箱根・鎌倉・横浜、なんだってすぐに観光地を連ねることができるけど、千葉はそうはいかなくて、私にとっては未開の土地という感じがする。

今年はある節目として興味深い土地があったので、日帰り旅行を決めた。
千葉県香取市・佐原(さわら)である。

成田市のもっと先にある香取市。ここはかの天才・伊能忠敬(いのうただたか)が地図を作る前、商人として活躍した土地だ。

しかも今年は忠敬の生誕200年という節目の年。
今みたいに便利さのない時代、伊能忠敬が正確な地図をどうやって作ったのかに興味津々な私に、打ってつけの場所だと感じた。

(※今回の旅行には愛機を忘れてきたので、撮影は写ルンですかiPhone6Sで行なっています。)


レンタサイクルでめぐる

佐原駅を出るとすぐの場所に観光案内所があり、そこでは1日500円でレンタサイクルを借りられる。
返却時間は夕方の16:30まで。佐原全体を楽しもうと思うと、意外とこれが短い。
1枚20円の詳しい観光マップをいただき、どう巡るのか軽く見当をつける。

ここで帰りの電車・バス時刻を確認しておくとスムーズだ。いずれも1時間に1本ほどなので、逃すと痛い。

小江戸情緒のある街並み

佐原駅から徒歩で10分ほどの距離にある、小野川沿い。
利根川がかつて運輸網として使われていた時代から残る、風雅な建物たち。

街の真ん中を流れる現在の小野川では、船乗り体験を楽しむことができる。

今でも残る”木の下旅館”は、1901年築だという。

それぞれの建物に個性がある。
一歩進むごとに新しい景色へと変わっていく街並みは、安穏に暮らす人々と調和して、のどかな空気に包まれていた。

お昼ご飯は古民家イタリアン

“食”は旅の楽しみのうちで、もっとも重要なことのひとつだ。
佐原にはたくさんのそそられる食事処があり、決めるのにも一苦労だった。

うなぎやフレンチ、和食と迷ったが、今回はカーザ・アルベラータというイタリアンのレストランにお邪魔した。

小さな庭園があってうれしい

時の流れを感じさせる、どっしりとした立派な古民家。
こんな素敵な空間でイタリアンをいただけるなんて。小さく胸が躍る。

前菜は盛り合わせ。小さな一品ずつの繊細さに圧倒されて言葉を失い、表情筋をとことん緩めながら味わった。

追加で頼んだ前菜、フォアグラとりんごのテリーヌ。

厚みのあるフォアグラの濃厚さ。舌の上でするするととろけていくのが惜しい。お願いだから、ここで時を止めてくれ。
そう思った私は咀嚼を停止し、おいしさを極めたこの瞬間を、自ら止めることにした。
フォアグラにりんごとバルサミコ酢の旨味が絡み合い、その味わいは深淵の中の深淵を極める。

と、このように味の美しさについて、私の筆は止まるところを知らない。なので一旦ストップし、おすすめの料理だけ書かせてもらおう。

パスタ、「ジャガイモの自家製ニョッキ マッシュルームのクリームソース 白トリュフ風味」は好みであればぜひ頼んでみてほしい。
看板メニューだそうなので、きっと常にあるはず。パスタは2種類選べるので大いに悩もう。

写真の右側にあるつやつやした金属製の機械。こちらはなんと自家製のエスプレッソマシンだという。
このマシンから淹れたおいしいエスプレッソでシメとした。

リストランテ カーザ・アルベラータ 公式HP
※ランチ・ディナーともに予約制

伊能忠敬の足跡をたどる

佐原公園の伊能忠敬像

今回の旅の目的ともいえるのが、伊能忠敬について知ること。

今や私たちは衛星写真地図で正確な土地の姿を見ることができる。
今さら誰も「私が歩き測って、日本の正確な地図を作りましょう」なんてことは言わないし、そんなことは馬鹿げていると感じるだろう。

しかし人工衛星のない時代、その志を固め実行した人物こそが、伊能忠敬である。
佐原の地で豪商として生きた忠敬は、50歳で江戸へ渡り、暦学の門を叩いた。

まずはレストランからほど近い、伊能忠敬記念館へ。

伊能忠敬記念館

館内は撮影ができないので雰囲気はお伝えできないが、伊能忠敬に関する解説や史料が読みきれないほどある。

子どもでも楽しめるように作られているため、Wikipediaを読むよりよっぽどあっさりと、体系的に忠敬の生涯を学べる。
実際に制作された地図は惚れ惚れするほど精緻で、感動ものだ。
同じ手と足を持った人間が、ここまでの偉業を成しとげたということに、とことん胸を打たれる。

失敗してしまった

コンピュータで学べるコーナーがあったのだが、そこに収録されたゲームの数々に熱中してしまった。
特に「忠敬 長者伝説」という船乗りゲームは鬼のように難しく、何度プレイしてもクリアは敵わなかった。
もし訪れたら、ぜひゲームも楽しんでほしい。(はまり過ぎない程度に…。)

忠敬の住んだ旧宅へ
忠敬の暮らした跡

忠敬は偉大な活躍を遂げた生涯の中で、人々が飢えに苦しんだときは貧民を助けた。

伊能家の家訓には、「嘘はつかない・孝行をする・目下の意見もよく聞く・尊敬謙譲を大切に・人と争わない」などが書いてあった。
私もいつか世の中の役に立ち、素晴らしい人格を備えた忠敬のような人間でありたいと誓う。

ポストと猫

“佐原の大祭”の迫力

関東三大祭りの一つ、佐原の大祭。
こんなに豪勢なお祭りがあることを、不勉強ながらここへ来て初めて知った。

夏(7月)・秋(10月)と年に二回行われるこのお祭りは、ユネスコ世界無形文化遺産にも登録されている。

山車の繊細な彫刻

意匠を凝らした豪華な山車の上にひとつ、大きな人形。
人形のモデルは歴史的な人物が選ばれ、その種類は20種類以上。その大きさには鬼気迫る凄みがあって、実際のお祭りをこの目で見てみたいという気持ちが強まった。

香取神社の総本社、
“香取神宮”へ

駅から自転車で15分ほど離れ、香取神宮へ向かう。

途中、優しい田園風景があったりと、ふいに癒される。
参道には雰囲気のいいコーヒーショップやお土産やさんが立ち並び、静かなる活気をうかがわせる。

神社ではよくあることだけど、鳥居をくぐった瞬間にしんと静まり、冷たい空気が肌をさす。
ここ香取神宮はまさしくそうだ。

見上げるとどこまでも続きそうな楓の回廊は、光のあたる部分とそうでない部分が絶妙に織りなすグラデーションで、ひかえめに輝いていた。

色がいい。
夕陽に包まれた柔らかい朱の色が、今でも目に焼き付いている。

この景色も忘れがたい

さて、時刻は16:00。そろそろ自転車を戻さなければ。
楽しかった思い出とともに、駅方面へ引き返す。

この日、おやつを食べられなかったのが悔やまれる。
醤油ソフトや宇治金時など、面白そうな看板はしっかりチェックしたので、再訪した際は忘れずに。

レトロな洋風建築もある。
佐原駅前

上の写真、左方向に伊能忠敬像が見えるだろうか。
私が来る数日前(!)に200年記念で建立された像だ。裾をひるがえし北極星の方向を向く忠敬は、使命感で満ち溢れている。

私は電車を逃したので、ふたたび街並みへと戻る。

ここで感じる夕暮れはとてもロマンチック。
揺れる柳、営業を終え日常に戻りゆく昔ながらの家並み、それを見守る小野川。

間違いなく素敵な小旅行ができたな、としみじみ感慨に浸る。

2018年5月26日からは「水郷佐原あやめ祭り」が始まり、駅からあやめパークへのシャトルバスが出るそうだ。
もしこれからの時期に行くのであれば、多少混雑するだろうけど、あやめを見にいくという楽しみも増えるだろう。

だいだい色に輝く成田線が美しすぎて、立ちすくんでしまったり。
あの時確かに、帰りたくないと足が言っていた。

けどいざ帰り始めると、マジックアワーの空と田んぼの景色が幻想的で、小旅行は帰りもいいななんて心変わり。
いつかこのあたりに写真を撮りにきたいな、と想像をする。


千葉にはまだ見ぬ素敵な場所がたくさんありそうだ。
これからも小旅行先に千葉を選んでみよう。

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